神奈川歯科大学 歯学部 社会歯科学系 社会歯科学講座 口腔衛生学分野

教育(大学院)

2023年度

1年生 研究基盤学、医学統計演習

2年生 多分野最新研究学、社会歯科学実習

3年生 口腔科学演習

4年生 研究論文演習、歯科保健政策特論

これまでの大学院生のテーマ

  • 2型糖尿病患者における尿中アルブミン値と歯周病指標との関連:横断研究
     近年、医科歯科連携が求められる中、糖尿病と歯周病は相互に関連のある疾患であり、両疾患に対する協調的な管理が必要とされている。糖尿病の合併症として、慢性腎疾患や循環器疾患が挙げられ、特に近年は長期療養の糖尿病患者が増加していることからそれら合併症の予防のために血糖コントロールの重要性がますます高まっている。尿中アルブミンは腎症の早期診断指標であり、糖尿病の合併症の管理に重要な指標である。先行研究から歯周病の進行と腎疾患との関連が示されていることから、腎症のマーカーである尿中アルブミンと歯周炎との関連が示唆される。そこで、本研究では多施設の医療機関において多数の被験者を対象とし、尿中アルブミン値と歯周病重症度の関連を検討することを目的とした。
     全国臨床糖尿病医会所属の糖尿病専門医が勤務する25の医科診療所において、2014年から2018年に2型糖尿病の治療のために通院歴のある有歯顎の患者2,302名を被験者とした。診療録から、性別、年齢、ヘモグロビンA1c、尿中アルブミン値、Body mass index、収縮期血圧、糖尿病への罹病期間、糖尿病治療法と病歴を採取し、また質問紙から学歴、家族の年収、喫煙状況、歯磨き回数のデータを取得した。各医科診療所から近隣の歯科診療所へ患者を紹介して歯周病検査を実施し、1歯につき6点の歯周ポケット深さ、プロービング時の出血の有無、歯の動揺度、現在歯数の計測を行った。解析は全患者、および正常アルブミン尿の患者に対して、上記の各種指標や歯周病指標とアルブミン値との相関を調べた。さらに、目的変数を尿中アルブミン値、説明変数を各種歯周病指標として、上記の因子で補正を行った重回帰分析を行った。本研究の実施にあたって、自由が丘医科クリニックおよび神奈川歯科大学における倫理審査委員会での承認を得ており、すべての被験者からは書面でのインフォームドコンセントを取得した。
     結果として、全患者での尿中アルブミン値の平均は12.9 mg/g creatinine、正常アルブミン尿患者での尿中アルブミン値の平均は9.2 mg/g creatinineであった。全患者においては尿中アルブミン値と平均歯周ポケット深さの間に統計学的有意な相関を認めたが、正常アルブミン尿の患者で行った関連解析では尿中アルブミン値と平均歯周ポケット深さの間には統計学的な相関を認めなかった。全患者を対象とした重回帰分析から、平均歯周ポケット深さ、4 mm以上の歯周ポケット割合、動揺歯の割合、歯周炎重症度について尿中アルブミン値との有意な関連を認めた。
     以上の結果から、治療中の2型糖尿病患者において、尿中アルブミン値と歯周炎重症度との関連があることが示された。尿中アルブミン値という指標に着目することで、より効果的な医科歯科連携が期待されると示唆された。
     本研究の成果は2020年のDiabetology Internationalに掲載された。
  • 口腔の健康状態は転倒のリスクを増やすか?:JAGESプロジェクト縦断研究
     転倒・骨折は要介護の原因の約12%を占めており,そのリスク因子の特定と予防が課題となっている。縦断研究により,高齢者において歯数が少ないことや,義歯の不使用が転倒のリスク因子であることが報告されている。さらに横断研究により,高齢者の口腔機能の低下と転倒との関係が報告されているが,因果関係は不明である。そこで本研究は,縦断研究によって口腔機能の低下とその後の転倒発生との関係を検討した。
     日本老年学的評価研究(JAGES)プロジェクトが2010年と2013年に実施した,24自治体に在住する65歳以上を対象とした自記式質問票による郵送調査のパネルデータを用いた。JAGES 2010年調査および2013年調査の両年に回答した62,438名のうち,2010年調査において日常生活自立度(ADL)が全自立で過去1年間に転倒歴のない40,853名を対象とした。目的変数を2013年調査における過去1年間の複数回の転倒経験の有無,説明変数を2010年の歯数および義歯の使用状況,基本チェックリストの口腔に関する3項目の有無とした。調整変数は年齢,教育歴,等価所得,抑うつ,主観的健康感,手段的日常生活動作,Body Mass Index,転倒関連疾患の有無,社会参加の有無,一日平均歩行時間,飲酒歴,自治体の人口密度として,男女別に個人を第1レベル,自治体を第2レベルとしたマルチレベルロジスティック回帰分析を行った。
     男性の2.4%,女性の2.1%が転倒を経験した。歯数が少なく義歯不使用者は女性において転倒リスクが有意に高くなった。口腔機能は,男女とも全項目で有意確率が10%未満の関連がみられ,調整オッズ比(95%信頼区間)は,女性ではむせの自覚がある者で1.64(1.27-2.11),男性では口渇の自覚がある者で1.41(1.12-1.77)と有意(p<0.05)であった。
     これらの結果から,日常生活自立度が全自立で,過去1年間に転倒経験のない地域在住高齢者において,「口の渇き」や「むせ」の自覚がある者が,その後の転倒リスクが高いことが明らかになった。「口の渇き」や「むせ」といった口腔機能の低下は,直接的あるいは間接的に身体のバランス機能に影響している可能性が示唆された。また,口腔機能の低下が身体のバランス機能に先行することより,口腔機能向上と運動機能向上を組み合わせることで効果的な介護予防事業に繋がる可能性が示された。
     本研究の成果は2018年のPLoS ONEに掲載された。
     ※上記の論文はこちらから全文無料ダウンロードできます
  • 関東7都県の市区町村における3歳児う蝕有病者率の変化と社会背景要因との関係
     日本における小児のう蝕有病者率は減少傾向にあるものの地域差が存在し、その差の縮小が課題となっている。本研究では、関東7都県の市区町村における3歳児う蝕有病者率の変化と社会背景要因との関係を検討することを目的とした。
     関東7都県の市区町村のうち3歳児歯科健診対象者が50名以上の281市区町村を対象とした。2000年と2010年における3歳児う蝕有病者率の変動係数を算出した。次に2000年における12種類の社会背景指標(可住地人口密度、第1次および第2次産業従事者割合、完全失業率、人口1人当たり課税対象所得、大学・大学院卒業者割合、検挙率、財政力指数、保健衛生費率、児童福祉費率、人口1人当たり歯科診療所数および飲食料品小売店数)を用いた因子分析を行い、各因子の因子負荷量を説明変数、2000年の3歳児う蝕有病者率および2010年までの有病率の変化を目的変数とした重回帰分析を行った。
     3歳児う蝕有病者率の変動係数は2000年で0.281、2012年では0.308であった。因子分析から「社会経済状況」、「飲食料品流通度」、「都市化」、「児童保健福祉サービス充実度」の4因子が抽出された。重回帰分析からは2000年の3歳児う蝕有病者率および2010年までの変化は、いずれも社会経済状況との間に有意な負の相関関係(偏相関係数:-0.643、p<0.001;-0.266、p<0.001)がみられた。
     これらの結果から、近年になっても小児のう蝕有病状況には地域差があり、その差は縮小していないこと、またその差および変化には社会経済状況が強く関連し、社会経済状況の良い地域ほどう蝕有病者率が低く、その後のう蝕有病者率の減少が著しいことが明らかになった。今後、小児のう蝕有病者率の地域差縮小のために社会経済状況を踏まえたアプローチが求められる。
     本研究の成果は2016年の日本歯科医療管理学会雑誌に掲載された。
  • 児童にフッ化物無配合歯磨剤を使用させる保護者の歯科保健行動特性
     健康日本21における歯科保健目標に「学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤の使用割合を90%以上にする」があったが、この目標は達成に至らなかった。本研究の目的は、フッ化物を配合しない歯磨剤を児童に使用させている保護者の特徴を検討することである。
     2010年度に18小学校の児童の保護者に質問紙調査を行い、分析項目の全データがそろい、かつ歯磨剤を使用すると回答した児童の保護者6,069名を対象に、歯磨剤へのフッ化物配合の有無と歯磨剤選択理由、児童の歯磨き方法および児童へのう蝕予防の心がけとの関連を検討した。
     マルチレベル(第1レベル:個人、第2レベル:学校)ロジスティック回帰分析の結果,フッ化物無配合歯磨剤の使用は、歯周病予防(オッズ比:1.44)を歯磨剤選択理由に挙げること、フッ化物配合(0.40)、味がよい(0.49)、低価格(0.50)を歯磨剤選択理由に挙げないこと,および歯磨剤使用頻度が時々(1.39)であることと有意に関連していた。保護者に対して、児童にはう蝕予防対策としてフッ化物配合歯磨剤を使用するよう啓発することが求められる。
     本研究の成果は2013年のBMC Oral Healthに掲載された。
     ※上記の論文はこちらから全文無料ダウンロードできます
  • スリランカの中高年者における味覚閾値と低体重の関係
     低体重や低栄養は重要な健康課題であり、その予防・改善のために様々なリスク因子が示唆されている。本研究では、味覚感度の減退から食欲の減退が起こり、低体重となるという仮説を設定し、Body Mass Indexと味覚5成分の生理学的検査による感度との関係をマルチレベルポアソン回帰分析によって検討した。
     スリランカ西部州にある19ヶ所の要介護施設の入居者の内BMIが25未満(低体重または標準体重)である951名(平均年齢:72.1歳)を分析対象者とした。
     分析の結果、苦味の味覚感度が低い者は低体重の可能性が高くなることが明らかになった。本研究は横断調査であるため、因果関係は不明であるが、味覚機能の維持が適正体重の維持に有効であり、低体重や低栄養の予防・改善に有効である可能性が示唆された。
     本研究の成果は2013年のJournal of Oral Rehabilitationに掲載された。
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